三谷幸喜逆輸入「The Last Laugh」

日曜日に見てきました。「笑いの大学」のUK版である「The Last Laugh」。実は私は日本版も見たことなかったのですが、すっかりはまってしまって帰りにTSUTAYAに寄って映画版を借りてきて見てしまいました。まぁ、日本版も舞台というオリジナルがある訳だし、映画と舞台じゃ純粋な比較にはならないけど、軽く比べながらUK版の感想を書きます。長いよ。しかも完全にネタばれなので注意。 戦時中の舞台作家と検閲官のやりとり、という設定は同じですがまず登場人物の描き方に若干違いが。映画の方は稲垣吾郎が演じているからか喜劇作家とはいえ、なんか真面目そう。ユーモアのセンスがあるのかないのか、とにかく検閲官にOKをもらう事を目指して真面目に本を直してきます。役所広司演じる検閲官は大衆文化を見下していて、容赦なく作品を取り締まっている。でも実は二人とも「真面目」という点は共通で、その二人が舞台を面白くする事に夢中になっていくというのは何となく自然に見えてしまうのですね。 UK版はというと、Martin Freeman演じる作家は根っから明るそうで、ちょっと軽くて、ユーモアのわからない検閲官を少し馬鹿にした感がある。冒頭から誰もいない部屋で勝手に検閲官の帽子をかぶって(軍服のやつ)ドイツ語っぽい言葉をぶつぶつ言う姿はチャップリンみたいだし、あからさまに賄賂(チョコレート・笑)で検閲官のご機嫌を取ろうとします。対する、Roger Lloyd Packの検閲官はもう見るからにお堅いイギリスの軍人さんで、ジョークなんて絶対言わない。舞台の事も全く知らないから、半ば真剣に見当はずれな注文をつけ、台本はどんどん変な方向へ。 ちなみに日本版だと作家がパロディにしようとしていた”ロミオとジュリエット”は戦争相手の英国の文化だという事で没になり、代わりに貫一とお宮(金色夜叉)になってしまいますが、UK版では戦時中なので、勇ましい方がいいと”Henry and Juliet”になってしまいます。私のお気に入りのシーンは、「オマージュ」の意味がいまいち掴めない検閲官が「原作者(シェークスピア)に許可は取ったのかね?」と聞き、作家が「…もう死んでますから。」と答えるところ。その後更に「それじゃ、奥さんの許可は?」と返す検閲官が大好き。 懸命に「笑い」のおもしろさを伝えようとする作家、「何が面白いのかさっぱりわからん!」と言いながら少しずつ「笑い」にはまっていく軍人、その二人の対比、おかしなやり取りの中で妙におもしろくなっていく台本、こういったオリジナルにもある要素をよりシンプルに演出しているので、UK版は何かサッパリとした面白さ。二人の役者さんもすっごくうまくて、終盤に二人でコメディを練習するシーンなんかはテンポのいい掛け合いの連続で、場内大爆笑でした。 さて、この二人の妙な出会いは、作家が徴兵されるという形で終わりを迎えるのだけれど、このエピソードは日本版と同じなのですね。ただし日本版は「赤紙」という独特の重さがあり、そこから三谷作品らしい人間ドラマにつながっていきます。「お国のために死んでくる」(この台詞は前半のコメディ部分からうまくつながってる。)という作家に対して、「生きて帰って来い」という検閲官。映画の方はちょっとくどい位このやり取りがありました。しかしUK版はあまりこの部分を強調していなかった感じが。皮肉にも今度は作家が軍人の世界へ連れて行かれてしまう最後のシーン、検閲官は一言「命を粗末にするな。」と言い、作家の方はニヤッと笑って「ご心配なく。」と返します。このシンプルなやり取りだけで検閲官の言葉の重みもわかるし、スマートなエンディングになっている気がします。 さすが芝居の国だ…。ウィットに、素朴に、ストレートに三谷作品をリメイクしてしまった。二人の役者さんも本当にすごかったです。日本で見れて本当に良かった! こうなってくると、日本版の舞台が見たいなぁ…。

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